【雑記】Cold Brewについて

コーヒー

コーヒーの飲み始めは諸説ありますが、私の調べた限りで総じて言える事は
覚醒作用など薬理効果を求めて「煮出して飲んでいた」のだと考えられています。

そういった意味ではCold Brewは比較的新しい抽出方法だと言えますが、
抽出方法はシンプルながらそのルーツは調べるほどにややこしいものでした。
あなたの飲む一杯に対しての理解がより深まればと思い書き連ねてみます。


Cold Brew(コールドブリュー)とは?

Cold Brewというのは英語であり、日本語に直訳すれば「冷たい抽出」です。
それはそれは日本語でいうところの「水出しコーヒー」となります。

コーヒーにおける「水出し」の方法は主に二つあり「滴下式」と「浸漬式」があります。
どちらも読んで字の如くですが、ちょっと読みが難しいですね。


滴下式(読み:「てきかしき」または「てっかしき」)

滴下式の特徴としては、ぽたぽたと水滴をコーヒー粉に少しずつ落として抽出します。
Dutch Coffee(ダッチコーヒー)Kyoto Coffee(京都コーヒー)などとも呼ばれ、
ガラス装置を使用してゆっくりと時間をかけて水を滴下させることで抽出します。
抽出されたコーヒーは非常にコクのある味わいです。

画像はOji というメーカーより販売されている、
WD-300というウォータードリッパーです。とても素敵ですね。
この上部の球状の部分から水を滴下してコーヒーが落ちてくる仕組みです。
おしゃれなインテリア?科学の実験器具?あるいは砂時計のようにも見えます。
事実、抽出には数時間がかかりますのでコーヒー時計と言えるのかもしれません。

さてこの滴下式が、「ダッチ」や「京都」だとか言われる理由にはそれなりに壮大な物語があります。

  • ダッチコーヒーって何なのさ

ダッチコーヒーとは、インドネシア発祥の滴下式の水出しコーヒーです。
なのですが…。順を追って説明します。頑張って下さいね。私も頑張りますから。
 
そもそもこの「Dutch(ダッチ)」という言葉から説明する必要があります。
元々「Dutch」とはドイツやオランダを含む地域のゲルマン民族やその言語を指す言葉でした。
しかし、オランダが独立した事で「海上貿易でイギリスのライバル」となったため、
イギリス人が、オランダ人に対しての悪口としてオランダの人や物事を「ダッチ」
と呼ぶようになり徐々に定着していった。(定説)という、歴史的な背景があります。
 
現代では良い言葉も悪い言葉も残り、日本語でも使われる言葉の例としてあげれば、
縄跳びの技ダブル・ダッチ、調理器具のダッチ・オーブン、ラブドールを指すダッチ・ワイフ、
などが「オランダの」という意味で使われている「ダッチ」になります。
上記の例にもある通り今では「ダッチ」という言葉自体には差別的な意味はないそうです。

  • インドネシア発祥の「オランダの」コーヒー?

そして舞台はインドネシアに移ります。
オランダが「海上貿易でイギリスのライバル」として登場する時代…。

今回のあらすじ
宗教、反乱、独立・・・
この世界初の株式会社「東インド会社」
世は正に大航海時代・・・(どん!)

画像はイギリス領のセントヘレナ島を出港する
東インド会社の船団です。


ヨーロッパ人(主にスペインやポルトガル)によるアフリカ・アジア・アメリカ大陸への
大規模な航海が行われた「大航海時代」と呼ばれていた時代が15~17世紀にあります。
その17世紀のはじめにオランダが設立した世界初の株式会社「東インド会社」という会社があります。
その会社はインドネシアを植民地支配をしていました。

ある日、インドネシアにいたオランダ人は思いました。

「あー、うめえコーヒー飲みてえ。」

実際、インドネシアには17世紀にアラビカ種が植えられています。
 ※後にさび病で全滅

また恐らく当時は一介の単身赴任の海外転勤族には抽出器具も貴重で、
今でこそマンデリンを筆頭にコーヒーの名産地と言えるインドネシアですが、
苗を植えたばかりの未知の土地ではコーヒー豆も満足のいく品質ではなかったと思います。

ではこの「必要」をどのように解決したかと言えば…。

「必要は発明の母」byトーマスエジソン




もちろんエジソンが発明したわけではありませんが、
大抵のことを知恵でどうにかしてきたのが人類の歴史です。 
そこで考案されたのが「滴下式」であり、
「ダッチコーヒー」の発祥だと言われております。

つまりダッチコーヒーは「インドネシア発祥のオランダコーヒー」という訳ですね。

 
 ほなドイツ違うか。
 ほなオランダ違うか。
 ほなインドネシアか。
 と、なるわけです。

さて、やっと京都コーヒーについて話せるぜ・・・

さて、このような海を越えたややこしい壮大な物語を経て、ついに京都まで来ました。
・・・なんで京都まで来てしまうのでしょうか。

東海道五十三次の京都は終点(五十五番目)でもあります。
この「滴下式」を巡る旅もようやく終点です。


実はこの「インドネシア発祥のオランダコーヒー」は、
とある「はじまり」が起こるまでは「器具として存在していなかった」のです。

というのも、この「抽出方法」について書かれた文献を元に京都の喫茶店である
「はなふさ」が京都大学の理学部生に相談し、医療器具メーカーに抽出器具を
作ってもらったのが、現在の滴下式Cold Brew「ダッチコーヒー」のはじまり。
と、言われているのです。

・・・プロジェクトXみたいになってきましたね。

  • これが「はじまり」

かつてはダッチコーヒーというものは砕いたコーヒー豆を袋に詰めて木の枝に
吊るし、水をかけてゆっくりと抽出(濾過)していた。そう記されている
原始的な「ダッチコーヒー」に関する文献、喫茶店、情熱、京大理学部生、
医療器具メーカーが奇跡ような化学反応を起こした事でダッチコーヒーは
ブラッシュアップされ「近代的な抽出器具としてのダッチコーヒー」という
モンスターマシンが誕生したのです。

時代を越えて、京都で文献をもとにパワーアップして復活するとかもう妖怪ですよね。
それも大妖怪です。

そして、その名はなぜかアメリカから・・・

京都でこの大妖怪が復活した時点ではまだその呼び名としては、
「ウォータードリッパー」や「ダッチコーヒー」という名称だけだったようですが、
アメリカでボストン大学教授・文化人類学者であり、コーヒーと日本の喫茶店が大好きな
メリー・ホワイトさんがその著書”Coffee Life in Japan”(2012年発刊)でこの抽出器具を使用した
ダッチコーヒーを「京都コーヒー(Kyoto Coffee)」と紹介した事で、「Kyoto Coffee」という
新たな名が拡がりました。
拡がっちゃいました。拡がっちゃったんです。
文献を基にしたとはいえオリジナルの抽出方法ですものね。しかしながら、
「京都コーヒー」という名称の初出がアメリカの書籍という奇天烈な展開でございます。

ここまで説明してようやく、なぜそのように呼ばれるのか理解できるわけです。
知らなくても美味しい。だけど、ここまでややこしい話もなかなかありません。


浸漬式(読み:「しんししき」)

浸漬式は、コーヒー粉を水に浸して漬ける事で抽出します。
家でも手軽に抽出する事ができて風味豊かでさっぱりとした味わいです。
「コーヒーが苦手だがこれは飲める!」という方も多くいます。

そして先述の「滴下式」で知的欲求が抽出過多となった皆さんには
朗報なのですが、「浸漬式」は正確な発祥を見つける事ができませんでした。
また、信憑性のある「有力な説」と呼べるようなものも見つけられませんでした。

浸漬式についても原始的なダッチーコーヒーが形を変えていったという事でしょうか。
滴下式以上に単純な抽出方法ではありますが、誕生の背景には謎が多い浸漬式です。

当時の書籍や雑誌を読み漁るようなところまで調べてはいませんが、
似たものとして「緑茶の水出し」も明確な発祥がわかりませんでした。
ただ「冷たくして飲む」こと自体が1980年代頃から拡がったそうで、
これは「冷蔵庫の普及」によって冷やすという行為が容易になった事と、
冷蔵庫で保管する事で衛生面が向上した事で一般的になったようです。
浸漬式についてもこれに近いのかもしれません。

最後に

今回「Cold Brew」について調べた事を語りましたが、
見事なまでの名称がややこしい抽出方式と、何もわからない抽出方式でした。

その抽出方法はとてもシンプルです。原始的でありながら、とても洗練されています。
そこに至るには人のうねりや歴史の「深み」があり、そして美味しい。まさにコーヒーです。

オランダの独立、大航海時代や、京都での抽出器具の誕生、はたまたいまだに残る謎…。
抽出を待つ時間は壮大な物語を秘めた「Cold Brew」に思いを馳せてみていかがでしょうか。

浸漬式水出しコーヒーの作り方についてはこちらをご覧下さい。

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